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いずもがみのえんむすび
『出雲神の縁結び』

― 兵庫県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 出雲(いずも)の神(かみ)さん言うたら、昔から縁結(えんむす)びの神さんじゃわな。朝から晩まで、何百組か何千組の縁結びをしていなさる。
 それが毎日のことじゃて、初めの間(あいだ)ぁ、
 「あそこの息子とここの娘。あの息子とこの娘」
と、選び選び言うていなさるが、昼頃になると、
 「あれとこれと、あれとこれと」
と言うようになり、晩方になると、
 「あれ、これ。あれ、これ」
 「あれこれ、あれこれあれこれ」
 になってしまわれる。
 この、「あれこれ」になったら間違いが起きて、そんな縁組が不幸になるんじゃそうな。

 
 ところで、縁結びの神さんにも娘のお子があって、その娘が三十歳にもなるのに、どこからも貰(もら)いに来ん。それで娘が腹ぁ立てたそうじゃ。
 「お父さん。他人の事よりも実の娘の方が大事じゃろう。早ぅ私の相手ぇ決めておくれぇ」
 「う、う―ん。実はもうとうに決まっとるのじゃが・・・、けど、あんまり不似合(ふにあ)いな話で、つい言いそびれとるんじゃ」

 「お父さんが不似合いじゃ思うても、行くのは私じゃで、どこの誰か言うておくれ」
 「ほんなら言うが、実は遠い他国(たこく)の山奥で炭焼(すみや)きしとる、ど貧乏の男じゃ」
 「私は、遠くてもど貧乏でもええ。今からその人のところへ行く」
 言うて、娘は旅ごしらえして、聟(むこ)さんのおる山奥を探しに出かけたんじゃと。

 山を越え谷を渡り、何日も旅をして、とうとう聟になる炭焼きの男に出合うたと。


 「私はあなたの嫁に決まっとる者(もん)ですで、今日からここに置いてもらいます」
 「そんな事ぁ俺は知らん。第一、俺は貧乏で嫁を貰うどころではない。それに、お前さんみたいなきれいな人は、俺の嫁にゃぁ似合わん」
 「いいえ、あなたが何と言うても神さんが決めた事じゃで、ここに置いて貰います」
 「俺ぁ困る」
 言うて、いさかいしとったが、とうとう男が根負けして、二人は夫婦(みょうと)になって暮らしたと。
 ところが、何日かしたら米櫃の米が無(の)うなって、その嫁さんが、
 「米が無うなりましたが、どうしましょう」
というと、男は困った顔した。
 「米は炭と取り替えておるんじゃが、今ぁ焼いた炭をきらしたところだ。次ぃ焼きあがるまで、まだ間がある」
 「ほんなら、これを持って行って買(こ)うて来ておくれ」
 言うと、嫁さんが懐(ふところ)から金(きん)の小粒(こつぶ)を出した。


 「こんなもんで、米と換えてくれるんか」
 何せ銭(ぜに)を持ったことのない男じゃて、不思議でならん。けど、町から来た嫁の言う事じゃ、間違いなかろう、思うて、山を下りて行ったんじゃと。 町へ出る途次(とちゅう)の丸木橋(まるきばし)を渡っているとき、男は金の小粒を一粒落とした。下の川をのぞくと、雑魚(ざこ)が寄って来て小粒をこ突(つ)いとる。
 「こりゃ面白ぇ」
 言うて、次の小粒も落とし、また落として、嫁さんから渡された小粒を、みな落としてしまった。

 男が手ぶらで家に戻ったら、嫁さんが、
 「あら、米はどうしました」
と聞いた。


 「うん、実はお前のくれたものは、こうこうで、みんな橋の下へ落としてやった」
 「まあ、なんちゅう人じゃろな。あれがありゃ何でも買えるのに」
 嫁さんが呆れていると、男は、
 「あんな物なら、炭焼き窯(がま)の横になんぼでもあるで、あした取って来る」
と言うたそうじゃ。 あくる日、嫁さんが連(つ)いて行ってみると、何と、炭焼き窯の横は金の山で、そこいら一面に金の塊りがゴロゴロしとる。
 嫁さんはびっくりして、
 「こんなにようけありゃぁ、あんたも炭焼きすることぁない。楽ぅしておくれ」
 言うて、幸せに暮らしたそうじゃよ。

 出雲の神さんが「あれこれあれこれ」と決めた縁でも、工合いよういく夫婦もあるんじゃそうな。

 いっちこたあちこ。

「出雲神の縁結び」のみんなの声

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楽しい

出雲の神様が「あれとこれ これとあれ」ってテキトーで面白かった! ビンボーのお婿さんがアホっぽかったな~^_^

楽しい

あれこれって成り行きで決めた縁が、まいこと(うまく)ゆく場合も有るって?!こげな出雲の神様の話は、出雲の国の私、初めて聞いたでえ!。まあ面白いからえとすうだわ。( 70代 / 男性 )

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